大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)25号 判決

一 特許庁における本件審査および審判手続の経緯、本願発明の要旨、引用例の記載内容ならびに本件審決の内容についての請求の原因第一ないし第三項の事実は、すべて当事者間に争がない。

二 そこで、本願発明の要旨とするところと引用例の記載とを対比して考えると、両者は、(一)チユーブレスタイヤと、タイヤ用ビード座およびこれに隣接するタイヤ保持フランジを有するリムとの間に装着して、これに分離自在に連結するようにした、空気を保持する補助部材にして、実質的に非伸張性にして前記タイヤおよびリムに装架したときは、タイヤの全周に亘り二つのビード間の空間に架橋する環状にして外向きの大体C字形断面を有する隔膜と、この隔膜の各対向縁に隣接して延長し、隔膜をタイヤに装架したときは、タイヤビードの底部の下方に延長し、リムと連関する部分を有する延長部分より成り、前記隔膜を前記タイヤおよびリムに装架したとき、これをその正規位置に分離自在に保持しうる二つの部分とを包含する空気を保持する補助部材である点において一致し、ただ、(二)本願発明においては、タイヤビードの底部の下方に延長すべき隔膜の部分の不装架時の正規の外径を、タイヤビードの内径より若干大きくすることにより、この隔膜の延長部分をタイヤビードに装架するときは、この部分を円周方向に圧縮し、この圧縮により該部分をビードの内周にしつかりと押圧せしめうるようにしているのに対し、引用例においては、タイヤビードの底部の下方に延長すべき隔膜の部分の不装架時の正規の外径を、タイヤビードの内径と同じにしている点において、両者は、一応相違していることが認められる。

そして、この相違点における本願発明の構成が当業技術者の技術常識にもとづいて引用例との関係において適宜取捨選択できる尋常の設計の範囲に属するかどうかが本件における争点であるので、以下この点について考える。

三 (一)タイヤの不装架時の正規の内径をそのタイヤを装架すべきリムの外径よりもわずかに小さくすることが従来周知の技術手段に属することについては、当事者間に争がなく、この技術手段がタイヤをリムに緊密に保持させることを目的とするものであることは弁論の全趣旨に徴し明らかである。

そこで、前示の相違点における本願発明の構成と右の周知にかかる技術手段とを対比すると、両者は、たがいに緊密に保持すべき二つの部材の相対関係が、単に逆になつているだけであつて、たがいに緊密に保持すべき二つの部材間の径に若干の差を設けた構造において軌を一にしているものということができ、このことは、右周知の技術手段においてはタイヤとリムとの間に関し、他方本願発明においては実質的に非伸張性の隔膜の延長部分とタイヤビードとの間に関するもので両者の部材に若干の差異があつてもいずれも二つの部材を嵌合してたがいに円周的に圧縮し合う力を利用し緊密に保持することを目的としてされるものであることを考え合せれば、これにより逕庭を生ずるものではなく、両者同様であることが明らかである。ここにおいて、右相違点における本願発明の構成は、右の周知にかかる技術手段を、公知である引用例の隔膜延長部分とこれを保持すべきタイヤビードとの部分に応用したにすぎないものといいうべく、したがつてまた、右周知の技術手段が従来きわめて周知慣用に属することについては原告の明らかに争わないところであるのに徴すれば、当業技術者の技術常識にもとづいて適宜取捨選択できる尋常の設計の範囲に属するものということができ、本願発明が隔膜の延長部分をタイヤビードに緊密に保持させたまま、さらに、これらを一体としてリムに装架するとしても、引用例のものが公知に属する以上、ひいて、右相違点をもつて本願発明が引用例と別異の発明を構成するものとしえないことが明らかである。

(二)なお、原告は、本願発明においては、隔膜の延長部分はその両側に立ち上り部分を有し断面がコ字状の環状体になつていてこの立ち上りのフランジ状部分が薄い平らな大直径底部分のアングル部材として作用し右延長部分に防撓効果をあらわすから、この延長部分はしわよらずにタイヤビード内面に緊密に連関できる特殊の作用効果を奏する旨主張する。けれども、引用例の隔膜延長部分も本願発明におけると同様両側に立ち上り部分を有し、断面がコ字状の環状体になつているものであり、原告が本願発明について主張する右の作用効果と同様の作用効果を、引用例のものに前示周知にかかる技術手段を応用することにより当然の結果として予想し収めることができるものと認められるから、原告主張の作用効果をもつて本願発明における特殊の作用効果とすることはできない。

(三)また、原告は、本願発明においては、隔膜の延長部分とタイヤビードとを一体的に緊密にしたままリムに装架することによつて、はじめて隔膜の延長部分がずれることなく正規の位置に保持できしたがつて空気保持作用が有効に行われ、これにともないすぐれた作用効果を奏するのに対し、引用例においてはそのようなことを期待しえない旨主張する。けれども、右のような作用効果は、前示の周知にかかる技術手段を引用例に応用して得られる技術的構成から当然の結果として奏し得られるものに属することが以上の判断に徴し明らかであり、成立について争のない甲第八号証(宣誓陳述書)も右認定をする妨げとなるものではないから、この点の原告の主張も採用できない。

そして、本願発明が日本以外の多くの国において特許されそのすぐれていることが認められている旨の原告の主張については、本願発明が外国において特許されたとしても、これをもつてただちにわが国においてもこれを特許すべきものということができないことはいうまでもないから、以上の判断を左右するに足りない。なお、そのほか原告において種々主張するところは、以上に直接判断されたもののほか、前示認定にそわないものであるから、採用できない。

四 右のとおりである以上、本件審決が、本願発明における引用例との前示相違点は従来周知の技術思想を引用例の隔膜延長部分とタイヤビード間に施したものに相当しこの程度のことは当業技術者においてその技術常識にもとづいて適宜取捨選択できる尋常の設計の範囲に属するものでありこの相違点については発明思想上格別の差異がないものといわざるをえないから本願発明は引用例のものと同一に帰し結局その出願前国内に頒布された刊行物に容易に実施することができる程度において記載されたもので旧特許法第四条第二号の規定により新規な発明と認めることができないとしたのは、相当であり、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを失当として棄却することとする。

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